みなさんこんにちは、橋本翔太オフィス 心理士スタッフの田中です。
私たちは日々、さまざまな感情を感じながら生きています。
楽しい、嬉しい、面白いなどのポジティブな感情もあれば、
悲しい、ムカつく、つらい、怖いなどのネガティブな感情もありますよね。
たくさんの感情がある中で、ときには「こんなことを感じてはいけない」と、
自分の本音に蓋をして、なかったことにしようとすることもあるのではないでしょうか。
「本当は悲しいのに、もっと悲しんでいる人がいるから私は悲しまないようにしよう」
「理不尽なことをされて怒りが湧くけれど、我慢していかないと」
「怖いなんて思ったら、みっともないよね。本当は怖くない怖くない」
こういった現象は、心理学の用語では【抑圧】と呼ばれています。
では一体、抑圧とはどんなものなのでしょうか。
抑圧とは
抑圧とは、防衛機制(ぼうえいきせい)という、心を守る働きのひとつです。
防衛機制というのは、私たちを一生懸命に守ってくれる心の働きの総称のことです。
防衛規制の中に、【抑圧】があれば、
他にも【投影】や【合理化】などなど、たくさんの種類があります。
冒頭の事例のように、本来感じているはずの感情や自分の本音を、
素直に感じることを禁止したり、ないものとして抑え込んでしまおうとする心の働きが、防衛機制のうちの【抑圧】によるものなんですね。
こうすることによって、感じたくない、感じてはいけない感情や本音から、私たちの心を守ってくれているというわけです。
抑圧は、防衛機制の中でも出番が多く、意識的に働くだけでなく無意識で働くこともあります。
むしろ、無意識で働く方が実は多いのです。
絶対に感じたくない、感じてはいけない感情や自分の本音というのは心の奥底にありますが、
少しでも表に出てきた途端に、すぐに抑圧が働き抑え込んでくれています。
ですが、一見その時は収まっているような様子であっても、それらの感情や自分の本音が存在しなくなったわけではありません。
心の中にはしっかりと残っていて、また何かをきっかけに表に出てこようとします。
それが、理由はよくわからないけど心が苦しかったり、ちょっとしたことで強いイライラ感に襲われたり、
不安や恐怖の大波に呑まれるような感覚になったりと、さまざまな形で心をじわじわと苦しめてくるんですね。
そしてまた、抑圧が働くという、ループに陥ってしまいます。
抑圧の働きは、一時的に収める場合にはとても有効かもしれませんが、
表に出てきそうになったものを抑え込んでいるだけなので、本当の意味で心が穏やかになることはありません。
抑圧の事例
以前、とあるクライエントさんのお悩みに、
「心から楽しむことができない」というトピックがありました。
友人たちと旅行に出かけたときも、大好きなアーティスのライブに行った時も、
いざその場面になると、楽しい感覚がいつの間に薄れていて、全然楽しむことができなかったとのことでした。
とても楽しみにしていたことだったのにも関わらず、
なぜこの感覚になってしまうのかはご自身でも理解できなかったそうです。
これはまさに抑圧の事例であり、無意識的に楽しむ感情や感覚を抑え込んでいたと考えられます。
ちなみに、楽しむ感情や感覚を感じることは、一般的には「良いこと」だと思われるかもしれませんが、
このクライエントさんにとって楽しむことというのは、「悪いこと」でした。
自分が心から楽しんでしまうと、
罪悪感、孤独感、何か怖いことが起こるのではないかと、そういう感情とリンクしていたんです。
そういった感情を感じないために、抑圧がうまいこと働いて抑え込んでくれていたというわけです。
抑圧とうまく付き合っていくには
問題なのは、抑圧というそれ自体の働きではなく、
感じたくない感情や自分の本音を、抑圧し続けてしまうことや、抑圧に頼り切ってしまうことです。
職場で怒りを感じて、そのまま上司や取引先にぶつけてしまうのは良くありませんし、
自分の子どもの前で毎度泣き喚くのも子どもへの悪影響になってしまうかもしれません。
そんな時に抑圧がうまく働いてくれるのは、とてもありがたいことです。
ただ、大事なのはその後に、
抑圧したことを振り返り、その時に感じた感情や身体の感覚を、少しだけでも気にかけてあげることです。
「何が私を悲しませたんだろう。」
「あの時感じた怒りは何がきっかけだったんだろう。」
「怒りを抑圧したことで何を感じるのを避けたかったんだろう。」
こんな感じで気にかけてあげることで、その時の嫌な状態を少し感じるかもしれません。
ですが、可能な範囲で良いので感じてみることで、抑圧によって抑え込んでいた状態から、
少しずつすーっと空気が昇っていくような感覚で解放されていくことを体感してみます。
つまり、抑え込んだままにせずに、自分が安心できるような適切な場所やタイミングで、
ちょっとずつ表に出してあげることがとても大事なんですね。
そうすることで、残っていたことで苦しかった感覚が、
不思議と和らいでいくことに気づいていけます。
先ほどの、楽しむことを抑圧していたクライエントさんも、
まずは抑圧に意識を向けたところから始まって、少しずつ気づきを得て、自己理解や癒しが進み、自然と楽しむことができるようになっていきました。
私たちをとても大事にしてくれている抑圧という心の働きを尊重しながら、
その背後にある自分の本音や感情に、ぜひ意識を向けてみてくださいね。