交流分析から考える人間関係の構造②【やり取り】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

みなさんこんにちは、橋本翔太オフィス 心理士スタッフの田中です。

今回のコラムは、以前執筆した交流分析における【自我状態】を解説したコラムの続きになりますが、親(Parent=P)、成人(Adult=A)、子ども(Child=C)という3つの主な自我状態と、そこから派生する特徴的な自我状態から、人との交流(関わり)の構造を見ていきたいと思います。

ざっと自我状態をおさらいをすると、以下の通りです。

・親の自我状態(Parent)
 - 養育的な親(Nurturing Parent = NP) → 鬼滅の刃 「お館様」、「マザーテレサ」
 - 批判的な親(Critical Parent = CP) → ドラえもん 「のび太のママ(のび太を怒っている時)」

・子どもの自我状態(Child)
 - 自由な子ども(Free Child = FC) → Dr. スランプ 「アラレちゃん」
 - 適応した子ども(Adapted Child = AC) → エヴァンゲリオン「綾波レイ」、「ヤンキー」

・成人の自我状態(Adult) → 名探偵コナン 「工藤新一(推理している時)」

もし「自我状態とはなんぞや?」「詳しく知りたい!」「細かい自我状態ってなんだっけ、忘れてしまった…」という方は先にこちらのコラムをお読みください。

交流分析から考える人間関係の構造①【自我状態】

さて、本題に入る前に少しイメージをしていただきたいのですが、人間関係において、「どうしても話が通じない」「なぜか分かり合えない」、あるいは「こちらの話がうまく伝わった感じがしない」と感じる場面はありませんか?

そしてそのような時に、「相手と自分は、性格や価値観が違うのだ」「そもそも相性が良くないのだろう」と結論づけてしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。

確かに、元々の性格や価値観の違いによって、相手と分かり合えないということも十分に考えられるでしょう。しかしここでお伝えしたいことは、相手と自分の【自我状態】の交流(関わり)が、会話のチャンネルをズラしてしまっていて、その結果として本来は分かり合えるはずの関係がすれ違ってしまっている可能性もあるのではないか、ということになります。

今回のコラムでは、主に恋人関係や夫婦関係をイメージして話を展開していますが、親子関係や仕事関係など、全ての人間関係において当てはまる話です。交流分析における【やり取り】は、すれ違う人間関係の謎を紐解く手がかりとしてきっと役立つはずです。

では早速、人間関係にはどういった交流形式(やり取り)があるのかを見ていきましょう。

相補交流(そうほこうりゅう:噛み合う関わり)

自我状態の交流には、3つの形式があります。

その1つ目が【相補交流】と言われるもので、いわゆる”噛み合う関わり”です。細かい解説の前に、以下の恋人/夫婦のパートナー関係における交流の事例をみていきましょう。

Aちゃん:
「最近は特に忙しくて、なんだかとても疲れちゃった…」

Bくん:
「すごく忙しそうにしてたし、本当に頑張ってたよね。」

Aちゃん:
「うん、ありがとう。そう言ってもらえてほっとするよ。」

何気ない自然な会話であり、穏やかな交流状態がうかがえます。

さて、ここでAちゃんとBくんの自我状態を見てみます。まずAちゃんの大人の自我状態(A)が、Bくんの養育的な親の自我状態(NP)に対して、共感や労いを求めています。そして、Bくんの養育的な親の自我状態(NP)が、Aちゃんの大人の自我状態(A)に対して、自然とその求めに応じています。

※Aちゃんが大人の自我状態(A)であるというのは、「最近は特に忙しくて、なんだかとても疲れちゃった…」という発信が、事実・状態を感情的にならずに伝えているためです。仮に子どもの自我状態(主にAC)であった場合、我慢や過度な要求がメッセージに含まれるため、相補交流は成り立ちにくくなります。

Aちゃんは自分のしんどさや甘えを素直に表現し、BくんもAちゃんの気持ちを素直に受け止めているため、この交流はお互いにとって非常にスムーズであり、安心感や温かさが芽生える心地の良い交流となっています。

なぜこういった心地の良い交流になるのかというと、「お互いに期待した相手の自我状態からの応答が自然と成立している」からです。

つまり、自我状態の交流がお互いの期待通りとなるのが相補交流、いわゆる噛み合う関わりです。相補交流の状態が続く限り、安定的なコミュニケーションが成立するのです。

恋人関係や夫婦関係の事例以外にも、たとえば建設的で有意義な会議などでは、参加者同士が大人の自我状態(A)で対話しているからこそ成立しているのであり、心から楽しいと感じる友達との交流では、お互いが自由な子供の自我状態(FC)になりきれているからと考えられます。

逆に言えば、相補交流が成立しないことによって、「どうしても話が通じない」「なぜか分かり合えない」「こちらの話がうまく伝わった感じがしない」と感じることになるのです。

交差交流(こうさこうりゅう:すれ違う関わり)

2つ目の交流形式は、【交差交流】です。「交差」という表現からイメージしやすいかもしれませんが、期待された自我状態とは異なる自我状態から返ってくる交流を指します。相補交流が”噛み合う関わり”なのであれば、こちらはいわゆる、”すれ違う関わり”です。「話が通じない」「分かり合えない」と感じるのは、この交差交流という関わり方になっている可能性が高いのです。

先ほどの相補交流の事例を、交差交流となるとどうなるでしょうか。

Aちゃん:
「最近は特に忙しくて、なんだかとても疲れちゃった…」

Bくん:
「すごく忙しそうにしてたけど、それって全部自分でやろうとしてるからじゃない?」

Aちゃん:
「はあ、、……そういう話をしてるんじゃないんだけど。」

先ほど同様に自我状態を見てみると、Aちゃんの大人の自我状態(A)が、Bくんの養育的な親の自我状態(NP)に対して共感や労いを求めているのは先ほどの相補交流と同じです。しかし、Bくんの応答が共感や労いの養育的な親の自我状態(NP)からではなく、問題解決志向である大人の自我状態(A)から応答しています。

一例ですが、Aちゃんの言葉を受け、今度はBくんが「なんでそんな不機嫌になるの?こっちも嫌な気持ちになるわ…」と応答すれば、二人のコミュニケーションはここで更に悪化するか、遮断される可能性が高いです。

Aちゃんは、Bくんの養育的な親の自我状態(NP)からの応答を期待しており、最終的にはBくんもAちゃんに養育的な親の自我状態(NP)を期待しますが、お互いに相手に養育的な親(NP)の応答を期待した、反抗的な適応した子どもの自我状態(AC)に陥ってしまうのです。

少しややこしいかもしれませんが、つまり、相手に期待した自我状態からの応答が、お互いに期待とは異なる自我状態からの応答によってすれ違っているという状態になっているのです。

当然ながらこの交流形式が続いていってしまうと、お互いに「わかってくれない」「伝わらない」という気持ちが積み重なり、人間関係は悪化し、本音を言えない仮面関係や、ましてや最悪の場合、破綻してしまうことも往々にしてあるわけです。

噛み合わない人間関係を紐解いていくと、必ずと言っても過言ではないほど、こういった交差交流による関わりが生じているはずです。

裏面交流(りめんこうりゅう:表と裏のある関わり)

最後にもう一つ、【裏面交流】という交流形式があります。

裏面交流では、表面上の自我状態の交流と、裏側にある心理的な自我状態の交流があり、一致しない二重のメッセージを与え合います。まさに「裏面」という名称の通り、”表と裏のある関わり”を意味します。

表と裏のある関わりというと、みなさんはどんな交流を思い浮かべますでしょうか。

よくある事例として、「察してコミュニケーション」や「皮肉」などがわかりやすいのですが、以下、「察してコミュニケーション」の一例を取り上げて見てみましょう。

Aちゃん:
「最近は特に忙しくて、なんだかとても疲れちゃった…」

Bくん:
「すごく忙しそうにしてたし、本当に頑張ってたよね。」

Aちゃん:
「うん、まあね…」

Bくん:
「…まあ、、ゆっくりやすんで。」

文章だけだとイメージや温度感などが掴みづらいかもしれませんが、上記の交流に対してどんな印象を抱きましたか?

こちらも最初のやり取りは相補交流の事例と同じですが、Bくんの応答に対して、Aちゃんが「うん、まあね…」と何やら不満そうな態度を露わにしました。一方でBくんも、Aちゃんの態度に刺激されたかのように「…まあ、、ゆっくりやすんで。」と、歯切れの悪い応答をしています。

このやり取りで起こっているのは、典型的な「察してコミュニケーション」による裏面交流です。Aちゃんは「最近は特に忙しくて、なんだかとても疲れちゃった…」という言葉の裏の意図には、労ってもらうことだけでなく、「家事を手伝ってほしい」「行動で労いを示してほしい」という期待を同時に抱いています。

つまりAちゃんは、

表のメッセージ:
「疲れているから、気持ちを分かってほしい」

裏のメッセージ:
「少しでいいから、家事を代わってほしい」「行動で労ってほしい」

という、表と裏の二重のメッセージを発しているのです。

そして、Aちゃんの表の自我状態は大人の自我状態(A)であり、Bくんの養育的な親の自我状態(NP)からの応答を期待していますが、Aちゃんの裏の自我状態は自由な子供(FC)か適応した子供(AC)となっていて、裏の自我状態のメッセージに応答して欲しいと思っています。

一方でBくんは、その期待に薄々気付き、「家事をやることを求められている気がする」「ここで何か引き受けたら、次も期待されそうだな」「またこのパターンが始まった」というような思いから、Bくんは無意識のうちに、それが分からないふりをしています。自我状態としては、表では養育的な親の自我状態(NP)としての「労いの言葉」だけを返し、裏では行動には踏み込まず、Aちゃんの裏のメッセージには応答しないという、大人の自我状態(A)を選択をした態度をとっているのです。

とてもややこしく感じられると思いますが、表では相補交流が成立しているように見え、しかし裏では交差交流が成立しているといったようなイメージです。裏で交差交流が成立しているため、Aちゃんの「行動してほしい」という期待と、Bくんの「そこには踏み込みたくない」という応答が噛み合わず、Aちゃんは「わかってもらえない」、Bくんは「めんどうくさい」「よくわからない」という不満をお互いに感じやすくなるのです。そして、裏面交流による関わりが限界を迎え、交差交流が表面化することによって、人間関係が破綻することが多いのです。

知っておきたい交流の原則

以上、相補交流・交差交流・裏面交流という3つの交流形式を概観してきましたが、いかがでしたでしょうか。人間関係というものは、言うまでもなく非常に複雑です。交流形式一つを取ってみても、実際の人間関係の中ではさまざまな自我状態が入り混じり、多層的な交流が生じています。

しかし一方で、人間関係を性格や相性が合わないとすぐに捉えるのではなく、交流という構造そのものに目を向けることは、「なぜ分かり合えないのか」「どこですれ違っているのか」を理解するためにとても有効な視点となり、「よくわからない人間関係」を少し明るくしてくれるのではないかと思うところです。

最後に、知っておきたい交流に関する3つの原則を解説いたします。

原則①:相補交流である限り、コミュニケーションは続いていく

先ほどの事例で見ていただいた通り、相補交流であればお互いに心地の良い安定的な交流が成立するため、噛み合わないこともすれ違うこともほとんどなく、コミュニケーションは続いていきます。つまり、良好な人間関係を維持できるということを意味します。たとえすれ違いが起こったとしても、理解し合おうとするお互いの自我状態がしっかりと働きます。

原則②:交流が絶たれたときは、自我状態を移行する必要がある

交差交流や裏面交流によって噛み合わなかったり、すれ違ってしまったのであれば、立て直すためには自我状態を移行する必要があります。何を話しても、いつまで経っても同じような交流が繰り返されているのであれば、それはお互いにこれまでと同じ自我状態として固定されてしまっているのです。どちらかが、あるいは両者が、自我状態を切り替えない限り、交流を続ければ続けるほど、同じパターンが繰り返されて関係の疲弊だけが積み重なってしまいます。

原則③:裏面交流では、裏のメッセージが採用される

「察してコミュニケーション」や「皮肉」などの裏面交流では、裏のメッセージが力を持ちます。パートナーに「わたし、怒ってないよ。」と言われても、その後に口数が明らかに減っていたら、受け手としては「いやいや、、絶対怒ってるでしょ。」と感じるように、人は裏のメッセージを採用して関係を判断します。

これら3つの原則の中で、特に覚えていただきたい原則は②です。人間関係において、「なぜか伝わらない」「分かり合えない」などと何か違和感を覚えたときは、是非一度、「今、どんな自我状態同士の交流が起きているのか?」という視点を持ってみてください。そして、可能な範囲で、自分の自我状態をこんな感じで少し移行してみることを意識してみることが大切です。

「今この人は、感情が動いている子どもの自我状態かもしれない。それなら、私は落ち着いた大人でいよう。」

「責められているように感じるけれど、相手は不安な子どもなのかもしれない。ここは親になって受け止めよう。」

「話が噛み合わないのは、自我状態がズレているからかもしれない。まず私の立ち位置を切り替えてみよう。」

このように、自我状態をすっと移行できるのが理想ですが、どうしても心に余裕がないと難しいものですよね。そういった場合には、まずは自身の心を整えたり、向き合うことが重要かもしれません。橋本翔太の著書『わたしが「わたし」を助けにいこう』に掲載されているセルフカウンセリングワークなどを活用し取り組み、気付きや変化を体感しながら自我状態の移行を意識してみてくださいね。

心理士スタッフ 田中