みなさんこんにちは、橋本翔太オフィス 心理士スタッフの田中です。
人間関係の悩みは、人の悩みの大半を占めると言われています。
それだけ人間関係で悩んでいる人は多く、複雑な問題です。
人間関係に注目した心理学の一つに交流分析というものがありまして、
交流分析の中に「ストローク」という概念があります。
このストロークというのは、人間関係という複雑な問題を考える上でとても大事な概念ですので、
今回のコラムでは、ストロークについて簡単に解説していきたいと思います。
ストロークとは
ストローク(stroke)とは、
【人と人との間で交わされる、認識や働きかけ】
を意味する、心理学用語です。
エリック・バーンという心理学者の、交流分析という考え方に出てくる概念の一つです。
意味だけの説明だとわかりにくいと思いますので、具体例を挙げると、
・「こんにちは」と挨拶する
・話しを聞いてうなずく
・アイコンタクトをとる
・相手の手を握る
などが、ストロークです。
こういったことはすべて、相手の存在を認識し、それに対して何らかの働きかけをしています。
自分がいて、他者がいて、
そこで生じるすべての関わり(言葉、行動、空気感など)がストロークである。
と、思ってもらうとわかりやすいかと思います。
ストロークには4つの種類がある
ストロークには、実はいくつかの種類があるのですが、
今回は知っておいてほしい重要な4つのストロークをピックアップして解説します。
①肯定的ストローク
まず一つ目は、肯定的ストロークです。
褒めたり、慰めたり、感謝を伝えたり、笑顔を向けたりと、
相手が「心地よい」「受け入れられている」と感じるような関わりや働きかけがこれにあたります。
肯定的なストロークがベースとなっている関係性は、
安心感や信頼感が根付いていて、良好である場合が多いです。
②否定的ストローク
そして二つ目は、否定的ストロークです。「負のストローク」と呼ばれることもあります。
これは、肯定的ストロークとは反対に、相手が不快に感じるような関わりや働きかけです。
叱責や非難、冷たい視線を向けたり、嘲笑うような態度、などが挙げられます。
否定的なストロークが日常的に続くような関係性は、
心が深く傷ついてしまうし、相手の心を深く傷つけてしまいます。良好な関係性は築きにくいでしょう。
③無条件ストローク
次に三つ目は、無条件ストロークです。
言葉だけを見ても少し想像しにくいかと思いますが、
相手の行動や成果に関係なく、存在そのものに向けられるストロークです。
たとえば、
・どんなあなたでも大事に思っているよ
・そばにいてくれるだけで嬉しいよ
などが無条件ストロークの一例です。
親子関係や、パートナーや身近な人との関係で、
このストロークがしっかりと伝わり成り立っていると、自己肯定感高く、良好な関係を築きやすくなります。
いま上げたストロークは無条件な肯定的ストロークでしたが、
一方で、無条件な否定的ストロークも存在します。
これは、無条件に存在そのものを否定するストロークのため、
心に深い傷を与えてしまいます。
・あなたなんていない方がいい
・生まれてこられて迷惑だ
こんなようなストロークを与えられたら、
誰であってもとても傷ついてしまいますよね。
無条件な否定的ストロークは、とても心苦しいストロークなのです。
④条件付きストローク
最後に四つ目は、条件付きストロークです。
これは、相手の行動や結果、態度などに条件をつけて与えられるストロークです。
たとえば、
・テストで満点を取ったら褒めてあげる
・良い子にしていればここに居させてあげる
・私を大切にしてくれたらあなたを大切にするよ
といったように、何かができたときに限って与えられる関わりや働きかけが、
この条件付きストロークというものです。
条件付きストロークが有用であることは教育でも職場環境でもよくありますが、
条件付きストロークに偏ってしまった関わりは、安心感や信頼感は芽生えにくくなります。
条件を満たさせないとストロークが与えられないため、
条件を満たすことばかりに囚われてしまいます。
ストロークを得られないことが最も苦しい
そしてここからが大事なポイントなのですが、
人は他者からのストロークを得られないことが、最も苦しいと感じます。
特に親子関係やパートナー関係など、近しい関係において、これは顕著に現れます。
もちろん個人差はありますが、だれもが少なかず他者からのストロークを求めており、
ストロークを得ようと無意識的に思考していたり、行動していたりするのです。
それは、だれもが少なからず、「自分の存在を認めてほしい」と、
他者に求める承認欲求があるからです。
そして、先ほど解説した4つの種類のストロークがありましたが、
否定的なストロークや条件付きのストローク、無条件の否定的ストロークは、
ふつうに考えると与えられることは苦痛である、と思いますよね。
ですが実際は、たとえそのようなストロークであったとしても、
全くストロークを与えられないよりかは、「与えられた方がマシ」
と、判断してしまうのです。
もちろん、これは無意識に起こることが大半なので、本人は全く自覚がありません。
自覚なく、どんな形のストロークであれど、求める行動や態度をとるのです。
仮に自覚があったとしても、その欲求を自分でコントロールすることはとてもとても難しいのです。
たとえばですが、
ネグレクト気味な親に対して、子どもが泣き喚いたり、いたずらをするのは、
全く相手にされずに無視されるよりも、親に迷惑をかけることで叱責されたり、暴力を奮われたりする方が、
「無視されるよりもマシ」、と無意識に判断しているからです。
それがたとえ否定的なストロークであり、身体的な痛みや傷を負ったとしても、
自分という存在を認識してもらい、親との関わりや繋がりを感じられることが、最も重要だからです。
他にも、
水商売や地下アイドルなどに多額のお金を貢ぎ、
経済的にも精神的にも崩壊していくといった一種の社会問題がありますが、
それは、「多額のお金を貢いでくれるなら、相手にするよ」
といった、条件付きで非合理なストロークにも関わらず、なにがなんでも求めにいってしまうのも、
ストロークを得られないほど苦しいことはない、という気持ちの裏返しなわけです。
どれだけお金を失ったとしても、どれだけ心がボロボロになったとしても、自分の存在を認めてほしいし、愛してほしい。
そんなストロークを期待し、自分をコントロールできずに求めにいってしまうのです。
もちろん人間関係の問題がすべてストロークで説明できるわけではありませんが、
ストロークの影響は非常に大きいものであると私は感じています。
ストロークの視点を持って、自分の人間関係や、周りの人間関係を観察してみると、
・なんで私はこんなことをしたんだろう?
・なんであの人はあんなことをしているんだろう?
といったような、一見すると、信じられない行動や態度をとる裏には、
実はストロークを求める抑えられない衝動が機能していることがあるのです。
ストロークの視点を持つことによって、
これまで理解できなかった不思議だと思うことから、何かしらの発見があるかもしれません。
是非ご活用いただけたら嬉しいです。
心理士スタッフ 田中