みなさんこんにちは、橋本翔太オフィス 心理士スタッフの田中です。
私はたまに、混雑していない時間帯をねらって、ファミレスでパソコン作業をしに行くことがあるのですが、パソコン作業をしていたら、4人家族のお客さんが来店されて、私の席の、ちょうど後ろの席にその家族が座ったんですね。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、弟くん、といったところでしょうか。
真後ろの席ということもあって、話し声がどうしても聞こえてきます。
その聞こえてくる話の内容が、お兄ちゃんと弟くんの、能力や人間性を比較するような話ばかりで、
「お兄ちゃんはこんなにすごいけど、弟ちゃんは全然だめね。」
みたいな話を、両親共に子供に対して繰り返し話していたのです。
そういった家族の在り方や関係性が良いか悪いか、実際はどうかは別として、まさしくこれは、【愛玩子】と【搾取子】という、機能不全家族の一例なのかもしれないと感じました。
というわけで今回のテーマは、愛玩子と搾取子の心理、そして、そういった子供をもつ親の心理について解説していこうと思います。
愛玩子と搾取子
馴染みのない言葉が出てきましたが、愛玩子(あいがんこ)と搾取子(さくしゅこ)と読みます。
これらの言葉は、学術的な、正式な心理学用語ではないのですが、家族療法家などの界隈ではよく使われる言葉です。
言葉の文字を見るとなんとなくイメージがつくかもしれませんが、
【愛玩子】:親から過剰な愛情を与えられる子供(優遇される立場の子供)
【搾取子】:親から過剰な搾取をうける子供(差別的に扱われる立場の子供)
と、まずはシンプルにご理解いただけるとよいと思います。
もっと簡単にいうならば、親から「愛される子供」と、「利用される子供」といったイメージです。
先ほどの4人家族に改めて当てはめてみると、お兄ちゃんは、過剰に褒めちぎられ、何をしても認められているような態度を受ける一方で、弟くんは、否定や非難、お兄ちゃんとの比較をされ、さらには「みんなにお皿を配りなさい!」と、雑用を押し付けられるような声も聞こえてきましたので、お兄ちゃんが愛玩子であり、弟くんが搾取子であると想像ができます。
ちなみに、『シンデレラ』や『ハリー・ポッター』にも、愛玩子と搾取子の構図をよく表している描写があります。
『シンデレラ』では、愛玩子である義理の姉たちはパーティーへの参加も許されていたり、何をしても怒られることはなかったですが、その反面、シンデレラはまるで召使いかのように雑でひどい扱いを受けていました。
『ハリー・ポッター』では、両親から溺愛されている愛玩子のダドリー(ハリーのいとこ)の扱われ方と比べ、ハリーは階段下の物置に押し込まれたり、来客があってもいない者扱いをされていたりと、圧倒的な扱いの差が描写されてありました。
シンデレラもハリーも、実際の親からではないものの、こういった差別的な扱いを受けていた搾取子だったわけです。
愛玩子の心理と課題
さて、話しを戻しまして、まずは愛玩子の心理についてです。
愛玩子は、親から過剰に可愛がられるため、自分は人とは違う特別な存在であるかのように錯覚する傾向にあります。
求めるものは与えてもらえるし、悪いことをしても許されるので、あたかも自分を中心に、世界が回っているような感覚になりがちです。
子供の成長過程でこういった親や養育者との関わりが続いていくと、自分を大切にする能力である「自己愛」が、歪な形で膨らんでいき、愛玩子にとって、自分を大切にするということは、
「周りの人たちが自分にとって都合よく、周りの人たちが自分を大切にしてくれること」
といった考えになってしまうことが多いのです。
ですが、自分が中心という価値観を持つ反面、実は親が中心という価値観を併せ持っています。親からの過剰な愛情をもらい続けるために、愛玩子は親にとって都合の良い子供を演じます。親が望むような進路を選択したり、親にとって自慢の子供であるような振る舞いをしたり、親が喜ぶような、親の機嫌が良くなるような子供であろうとします。親の過剰な期待や、無理難題であったとしても、それに応えようとし、親からの特別な扱いを維持することを第一と考えてしまうんですね。
つまり、愛玩子にとって、その特別な扱いを剥奪されてしまうことが大きな恐れであり、親からの期待に応えられずに見捨てられてしまったり、自分が搾取子にされるのを恐れ、意識的にも無意識的にも、親にとっての都合の良い自分を演じてしまっているのです。
でも、本当は子供ながら気付いているんです。
過剰に可愛がられる愛玩子であったしても、「これは親からの無条件の愛ではない」と、本当は心のどこかで感じています。でも愛玩子でいることがある意味安心であり、心地よいため、その役割からなかなか抜け出せず、親に本音を見せることは難しいのです。
搾取子の心理と課題
搾取子は、愛玩子とは正反対とも言えるような扱いを受け、その結果、自尊心が深く傷ついているケースが少なくありません。
愛玩子もまた、内面に傷を抱えていることがが多いのですが、搾取子の場合は、その傷つきがより表面化しやすい印象を受けます。
親から否定され続けてきているので、自分を否定する気持ちが強く、劣等感や罪悪感などのネガティブな感情に心を支配されてしまっています。
なぜなら、何度もなんども、愛玩子と比較されてきたであろうし、本来、親や愛玩子の責任であったとしても、「お前が悪い」と、搾取子の責任にされた経験があるからです。親からのみならず、愛玩子からの攻撃や否定などのターゲットになることも往々にしてあり、家族の中での犠牲者役になってしまっているのです。
そして、そのような不当な扱いを受けているのにも関わらず、自己主張として反論することもできなければ、怒りの気持ちさえも、搾取子にとっては表現すること自体がとてもハードル高く感じてしまうのです。
本来であれば怒りの矛先は親や愛玩子であるはずなのに、
「自分に問題があるからこんな扱いを受けるのだ」
と思い込んでしまいやすく、怒りの感情を抱くこと自体が許されないと感じてしまうこともよくあるんですよね。
そして、搾取子の心理的な大きな課題だと個人的に思うのが、
「自分が何をしたいのかわからない」
「自分は何を感じているのかわからない」
というような、自分の欲求や本当の気持ちが、自分でわからなくなってしまっているところです。
自分がやりたいことがわからなければ、人に従うような態度を軸にしてしまいがちで、そこには少なからず苦痛を伴います。
つまりそれは、依存的な生き方になってしまってるということです。
自分が何を感じているかがわからなければ、楽しいと思えることも、面白いと思えることも感じにくくなり、ただただ、世界が無機質に思えて、心は空っぽで、自分が何のために生きているのかさえも、わからなくなってしまいます。
搾取子は、そういった心理的な大きな傷や課題を抱えてしまう傾向が強いのです。
愛玩子と搾取子をもつ親の心理とは
愛玩子や搾取子に対する親の心理的な特徴として、
愛玩子には、
・自慢の子供に仕立てることで、自尊心を満たす
・「子供を大事にしている親」という周りからの評価を求める
・子供を使って、自分が叶えられなかった夢や願望をやり直す
・子供に理想の親や恋人を投影し、子供を大事にすることで見返りを求める
搾取子には、
・愚痴の聞き役や、親の感情への共感的態度を求める
・親や愛玩子の問題や責任を引き受けさせる
・融通のきく都合の良いサポート役(家事や労働など)をさせる
などが、心理的な特徴として考えられます。
愛玩子も搾取子も、結局のところ親の都合によってそういった役割を与えられており、子供ではなく親にとっての望ましく心地よい家族関係を形作られているため、そこに子供の意思や感情はほとんど反映されていません。子供ではなく、親が家族の中心であり、親の期待や承認欲求を満たすための愛玩子であり、親の不平不満や欠乏感を埋めるための搾取子、というわけなのです。
ただ、そういった親自身も、子供の頃は愛玩子や搾取子として機能不全家庭で育ってきた可能性が高く、親自身も心が深く傷ついてるというのも心理的な特徴の一つとして考えられます。子供を利用する形で、その傷つきをなんとかしようとしてしまうんですね。悪意を持って意図的にこのようなことをしているわけではないことが大半なのです。
ファミレスで偶然出会った、お兄ちゃんと弟くん、そして御両親も、もしかしたら何かしらの深い心の傷を負っているのかもしれません。
どのように解決していけばいいのか
愛玩子や搾取子、そしてその親、、と一口に言っても、そこには人それぞれの背景や感じ方の違いがあるものですし、これまで解説してきた心理的特徴も、あくまで代表的な傾向にすぎません。
とはいえ、どんな状態であったとしても、自分の内側で起きていることに丁寧に意識を向け、内的な対話を通してメタ認知を深めていくことは、自己理解と回復への大切な入り口になり得ます。
自分の内側で起きている心の状態というのは、身体に傷を負ったように誰にでも目に見えるものではないですし、あらゆる感情や感覚が複雑に絡み合っているその微細なグラデーションは、結局のところ自分だけにしかわからないものです。自分の心の状態を、少しずつ紐解くようにケアしていくことで、自分でも信じられないほどの変化を遂げることもあるんです。
もしこのコラムを読まれている方の中に、愛玩子や搾取子としての経験、もしくはその親としての自覚があり、苦しさを感じている方がいらっしゃいましたら、橋本翔太の著書『わたしが「わたし」を助けにいこう』に掲載されているセルフカウンセリングワークが、上述した内的な対話とメタ認知にとても役立つかと思います。
このコラムでは割愛しますが、著書の中では対話の進め方や手順が丁寧に紹介されており、安心して取り組める内容になっています。ご興味ある方は、是非お手に取って取り組んでみてくださいね。
心理士スタッフ 田中
